無双神伝英信流 大石神影流 渋川一流 ・・・ 道標(みちしるべ)

無雙神傳英信流抜刀兵法、大石神影流剣術、澁川一流柔術を貫汪館で稽古する人のために

澁川一流柔術初段 論文

武道における礼と澁川一流柔術における礼法について

1 はじめに
武道は、「礼に始まり礼に終わる」といわれます。
あらゆる武道は、道場への入りから、稽古、組手、試合、そして道場を出るまで常に礼を行います。
このように武道では、最初から最後まで一貫して礼に則していることが求められますが、何より礼は互いの誠心がそれぞれ心に響くものであることが肝要なのではないかと思います。

2 武道の礼と澁川一流柔術の礼法
○武道の礼
武道においては、「礼に始まり礼に終わる」という教えがありますが、単に始まりと終わりにお辞儀をすれば良いというわけではありません。
最近行われた柔道の世界選手権で、団体戦で審判の判定に不服があったのか、試合後の一列に並んでも礼をしない、またはちょっと頭を下げただけと、非礼な振る舞いがあったようです。
柔道は武道です。それが武道ではなくスポーツとしての「JUDO」で勝つか負けるかしか頭にないと思われても仕方がない無礼な態度であったようです。
単に始まりと終わりにお辞儀をするだけという意味ではなく、まずどのような武道であっても、道場に入るとき必ず礼をします。そして、いざ相手と対する時、たとえば剣道では、まず立礼し、互いに抜刀、剣を構え、正しく蹲踞します。最後に勝敗にかかわらず蹲踞、納刀、立礼します。
さらに先生に対し稽古を求めるのであれば、これから教えを請いますという礼に始まり、稽古の中に、その先生に対する礼というものが常にあって、全身全霊でぶつかっていき、そして稽古の最後には、心から「ありがとうございました」という挨拶ができる、そのような稽古ではなくてはならない。そこに「礼に始まり礼に終わる」という本当の意味があります。
明治の終わる頃までは、日本語の中で「こころ」が最も多く用いられていたそうです。
日本語には、「心尽くし」、「心立て」、「心置き」、「心配り」、「心入る」、「心有り」、「心砕き」、「心利き」、「心嬉しい」、「心意気」、「心合わせ」、「心がけ」、「心延え」、「心回る」、「心馳せ」、「心根」、「心残り」、「心様」を始め、心が付いたおびただしい数の言葉があります。
『デイリーコンサイス英和辞典』で、「heart」と引くと、「ハートアタック(心臓麻痺)」、「ハートバーン(胸焼け)」を始め、両手で数えられるほどしか心(heart)の付く言葉がありません。
およそ日本文化のかたちは、江戸時代に作られたと言って良く、幕末体制のもとで平和が続く中で、ことさら精神が重んじられるようになり、「武士道」という言葉が生まれました。
戦う武術が武道となった、精神面が協調されるようになりました。
小笠原歌訓に「弓はただ 射てみせたても 無益なり 何とも無くて 気高きぞ良き」という歌がありますが、すべての基本の稽古は礼法であるといっても過言でないでしょうか。
ただ体を曲げた、形だけの礼には意味がありません。相手に対する気持ちが心になければなりません。礼をするのに、体を屈するという形が先であるのではなく、なぜ礼をするのか、その意味である「気持ち」が先に立つことが大切であり、礼をすることによって、互いの気持ちが響き、この「ひびき」の交流が、礼の意味を生かし、礼の形を生かしてくれるのではないでしょうか。
さらに武道における礼法は、正しい姿勢から生まれます。
重ねる稽古の中で、人は地の上に立っているのであり、自然に重力が働いているなかで重心を保って立っている。ほんの少しの挙動で地に逆らうことなく、自然な正座の姿勢をとることができ、さらには自然な正座や立位から、すこし重心動かすだけで様々な挙動を自然に取ることができる。中心は臍下丹田であり、例えば立った姿勢では、
・力学的に安定している
・筋肉に掛かる負担がすくない
が大事ですが、やはり中心には臍下丹田があることが重要です。
この立った姿勢の悪さでは、警察官等に見られる姿勢が代表的でしょう。
明治時代、士農工商という階級がなくなり、誰でも軍人になれる制度ができた時に、なかには教養の浅い子弟もいたため、彼らに集団教育を施す必要から「型に当てはめる教育」がなされました。
そのため、子供のころから自然の中で習熟した歩く、立つという当たり前のことを矯正して、集団の型に当てはめていったようです。
これは非常に効果的な教育方法であり、現在でも世界の軍隊に見られる姿ですが、ほとんどのスポーツで足を平行に踏むことを基本としているように、踵をつける立ち姿勢は、実に無理な姿勢といえます。
踵をつけ足先を開くと、踵に重心が落ちて、上体のバランスを取るために無理な姿勢をとることになります。
「無駄を省き、体を全体的、総合的に使うこと」が大切なら、重心の取り方を間違えた、すぐに疲れる姿勢、何より次の動作に直ちに移動できない姿勢となるのです。
ちなみに(姿勢の悪さが際立つ)警察礼式(国家公安委員会規則)では、「警察礼式は、警察官及び皇宮護衛官の礼節を明らかにして規律を正し、信義を厚くして親和協同の実をあげることを目的とする」と定め、具体的には、
・礼節~礼儀のきまり、礼儀と節度
・規律~人の行為の基準となるもの、秩序・きまり
・信義~約束を守り務めを果たすこと。信を守り義を行うこと。
・親和共同~親和とは親しんで相互に仲よくむつみあう、親しみ結びつくこと。
協同とは心を合わせ、助け合って共に仕事をすること。
とされています。
組織は、上意下達であり、迅速で的確な命令系統が求められます。
集団、部隊として統一した動勢が求められる以上、画一的で不自然な姿勢と成らざるを得ないのでしょうが、ただ、組織の指示、命令等においても、その本質には、礼の心、互いの意識の共有は非常に大切な点でもあると言えるでしょう。
総じて礼法とは、身を修めることを目的とし、身を修めるとは、内面的には心を正しくし、外面的には姿勢を真っ直ぐにすることであり、心と体は、影と光、礼は自分の心と行いを正すもので、それは自ら行動する体に現れる、「礼」とはあくまで抽象的な概念でなく、行動に生きる心そのものではないでしょうか。

○澁川一流柔術の礼法
さて、澁川一流柔術の形は、徒手で徒手や懐剣の仕掛けに応じ、棒で刀に応じ、また棒術などの得物を用いる術から成り、何百という伝承されている形があり、その特徴はすべての形に飾り気がなく、素朴で単純な動きで相手を制するところにあります。
そして、形には、受を制することなく、押し返すのみの動作を特徴とした、「礼式」が設定されており、これは、澁川一流柔術の理念が人と争わないことにあることを示していると言われています。
実際に稽古を重ねる中で、未だ最初に稽古する履形を修練しているところですが、一連の礼式の動作のなかには、座立の姿勢、自然体の構え、間合、目付、呼吸、残心などの基本の要素が集約・集束され、これから履形の形への導入のためのリラクセィションのようにも思うのです。
特に、広げた両腕の指先まで疎かにせず気を張ることの難しさを感じます。
澁川一流柔術の礼式は、自分の心と体を正していく、さらに相手との調和を図っていく儀式のようにも思います。

3 おわりに
人は、真実相手に感謝し、心から尊敬の念を感じた時には、自然に頭が下がるものです。『他者に対しては、礼を持って接する』そんなことは当たり前のことだし、するもしないも本人の品性の問題で、それ以上のことではないと言えるでしょう。
人は誰の奴隷でもない。そんなことのために生まれるものではない。他者に虐げられても屈することない心、災厄に襲われても挫けることのない心、不正があれば正すことを恐れず、獣に媚びず、己という領土を治める唯一無二の君主に。そのためにまず、他者の前で毅然と頭を上げること、そして毅然と構えることができ、そのうえで、相手への尊敬、誠意と共鳴、調和が内在することが礼法ではないでしょうか。
また、礼法、礼儀作法は、相手に敬意をあらわすものでありますが、武道の礼儀作法には護身(敵対動作)を踏まえた作法が多く見られることも事実です。
「正座をするときには左足から座り、立つときには右足から立つ(左座右起)」や「正座の礼法で座礼を行う時、左手を先につき、利き腕の右手を後につき頭を下げる。頭を上げる時には、右手を先に戻しその後に左手を戻す」。他にも、「衣の着用法では左手から通し、袴を着ける時は左脚から通す」、「小手をつける時においても、左手からつける」、利き腕である右手(右脚)は、油断を怠ることなく着用し、 脱ぐときには、「利き腕である右手(右脚)を先に脱ぎ、その後に左手(左脚)脱ぐ」など、 このように、武士の社会においては、礼をおこなう相手に対しても油断を怠らない敵対動作によって組み立てられていたようです。 
澁川一流柔術は、まぎれもない武術であり、しかも伝統ある古武道です。
相手を倒し制圧する術であるとともに、相手を制するためには、相手との呼吸、間合、目付、構えなどが整っていること、相手に対立し反発を受ける構図ではなく、相手を受け入れてこちらが動けば自然に相手も動いてくれる、つまり相手と調和できることが必要だと思います。
そのためには、心のある礼法が大切なのではないでしょうか。


1) 小野不由美 「風の万里 黎明の空」 講談社 初版第1版 2000年10月12日
2) 小笠原清忠 「武道の礼法」 財団法人日本武道館 初版第1版 2010年2月10日
3) 加瀬英明 「徳の国富論」 自由社 初版第1版 2009年11月20日
4) 小森富士登 「剣道における礼法の一考察」 國士舘大學 武德紀要 第27号
5) 貫汪館ホームページ

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  1. 2015/11/25(水) 21:25:00|
  2. 昇段審査論文

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